著者:森 博嗣
香山家に伝わる天地の瓢と無我の匣。
天地の瓢(壺)の中には無我の匣を開けるために必要な鍵が入っているが、鍵は壺の口より大きく、ボトルシップのようにその鍵を取り出すことはできない。
その天地の瓢と無我の匣に取りつかれた香山家の当主が2代続けて不審な死をとげる。
そんなに難しい事件ではないはずなのに、様々な偶然が絡み合い、どんな仮説をたてても事件をうまく解決することができない。
最後まで本当の真相が分からないまま、でも後味が悪いわけでもなく、夫婦の絆、美しさみたいなのを感じる作品でした。
「あの…、結局、模写の目的は、何なのですか?」
香山マリモ
「何かを生み出したい。自分だけのものを創作したい。つまり、そんな意欲を、すべて滅するためだわ」
「贅沢は、人の生にもっと近い…。贅沢とは、ある意味で生きるために必要なものです。権力を誇示する贅沢、それに、自己の感性を確認するための贅沢。しかし、僕が言っているのは、それを差し引いても残るものです。これは、無駄です。人間の歴史は、無駄でできた地層みたいなものなんです。これらは、偶然ではなく、意図的に役に立たないように、わざと無駄に設計され、それゆえ、普遍性を得るのです」
犀川先生